山のように強く
どうも、最近はめっきりトレーニングにハマってしまい、各方面から「うっとうしい」の言葉が出てき始めた僕です。
嫁さんがドムドムバーガーを買ってきて怒り、さらに飲み物がコーラで怒り、プンプン仕事に向かうと後輩のコが「パウンドケーキ作ってきました」とくれたのですが「こんなモン、食えるか」と怒り、冷蔵庫の中に無脂肪乳がないのを怒りと、それを見た上司が「アイツ、うっとうしいな」と嘆いてました。
家に居ても暇さえあれば筋トレやジョギングしたいので、仕事もはかどらず、趣味であった音楽や映像制作も筋トレのYoutubeを見る時間に変わりました。
しかしそんなストイックな生活を続けているためか、マジでお腹まわりは引っ込んできてまして、現在は7日間が経過したあたりですが、1キロの体重減、0.5%の体脂肪率減となってます。もちろん体筋肉量はキープ。目標が-2.5%ですからね。この計算だと5週間で達成できる予定です。やったね。
このままバリバリ鍛えて理想の体を目指します。
筋肉と言えば、中学時代体操部の所属していた友達がいましてね。岩下くんっていうんですが、
その彼、高校は知りませんが大学は日体大という筋金入りの体育会系でして、大学ではレスリングやってたんですよ。
中学時代ですらまさに恵体といった感じで、現在では身長が180センチを超え体重は100キロオーバー。しかし無駄な脂肪は一切なく体を形成しているのはほぼ筋肉、まるで室伏選手のようになってます。最近ではなんかの大会で金メダルとってました。
そんな岩下くん、今でも結構仲が良く「ジュンくん、ジュンくん」とかなり僕に懐いてまして、一緒に飲みいっては「岩下くん、肩車してよ」と僕を肩車して走り回るという関係なのですが、
筋骨隆々にも関わらずかなり優しい性格をしてます。多分動物とも話せるんじゃないかって気がしてきました。
そんな岩下くん、一緒に飲みに行った際、ゲーセンに寄ったんですが、なんかパンチ力を測るようなゲームあるじゃないですか。
「岩下くん、ちょっとやってみなよ。」と僕が囃し立て、全国一位くらい取れるんじゃないかと試したところゲーム機をぶっ壊すという偉業を成し遂げたのです。
僕「店長さんに謝ってくるわ。」
岩下くん「お、俺もいくよ・・・。」
と一緒に店長さんのとこに謝りに行きましたが、岩下くんを見た店長さん、おびえた様子で
店長「ル、ルール通りに使ってらしてたようなので、お客様はお気になさらないでください・・。」
と快く許して下さいました。
岩下くん「俺、なんか悪いから掃除とか手伝ってくるね。」
と壊した機械を掃除しに行ったんですが、その間タバコでも吸いに行くかと離れて割れた破片を拾い集める岩下くんとビビりながら掃除してるバイトの女の子を眺めつつ一服してたんですが、
「ねえ。」
と声をかけられました。
チンピラ「おい、聞いてんのかよ。」
僕「オレ?」
チンピラ「そうだよ。ねえ、ちょっとお金貸してくれない?」
今時いるんですね。こんなチンピラ。
これ見よがしにタンクトップを来て、ちっちゃなタトゥーを見せつけてるようなチンピラ二人に絡まれてしまいました。
まあ、僕のいい大人ですし、こういった輩は法の下しかるべき処分を受けてもらえばいいや、店員さんのとこ行って警察呼んでもらうか、と思ったんですが、
岩下くんが機械をぶっ壊して迷惑かけてしまった手前、ちょっと気が引ける思いでした。
僕「ねえ、勘弁してもらえない?」
チンピラ「なに?ナメてんの?」
だめだ、話になりません。
困ったものだ、と思っていたらふと妙に小さく見えるほうきで床をはいている岩下くんが目に入りました。
ああ、そうか。岩下くんにお金借りよう。
僕「友達にお金借りるね。おーい岩下くーん。」
岩下くんはピコンとこっちを向きます。
するとずいずいこちらへ歩いてきました。
岩下くん「呼んだ?どうしたの?」
よく、テレビとかでアフリカの映像が見れることがあると思います。
ライオンやトラに見つけられておびえる小鹿の目とでも言いますか。あれを想像してください。
チンピラの反応は、まさにそれです。
僕「お掃除ご苦労様。はいコーヒー。」
岩下くん「あ、ありがとう!どうしたの?」
僕「この人たち、知らない人なんだけどね。なんかお金貸してって言うんだ。」
チンピラ「・・・・。」
岩下くん「お金・・??」
岩下くんもさすがに事情を察したご様子です。
すると岩下くんチンピラ二人の肩にその凄まじい腕をかけ
岩下くん「お金なくなっちゃった?」
チンピラは何も言いません。
それもそのはず、彼らは自分の肩に丸太のように太い腕の重さを感じていますから。
岩下くんは僕があげた缶コーヒーをグイッと飲み干し、
片手でベキベキと潰しあげて僕に渡しました。
すっかり小さくなった缶を見せつけられたチンピラに岩下くんは
岩下くん「漫画で読んだよ。お金なくなっちゃったらおまわりさんが帰りの交通費くらいは貸してくれるんだって。一緒に行こうか?」
チンピラ「・・・・。」
岩下くん「聞いてる?」
チンピラ「・・・・。」
岩下くん「なんとか言えよ、このヤロウ。ちょっと俺と遊ぶか?」
チンピラ「すいませんでした・・・。勘弁してください。」
とチンピラは青い顔で逃げていきました。
僕「助かったよ、ごめんね嫌なことさせて。」
岩下くん「まったく、今時いるもんだね。ダメだよ、俺から離れちゃ。」
僕「おう。」
岩下くん「ジュンくんもほっそいから絡まれちゃうんだよ。もっと鍛えなきゃ。」
僕「考えとくね。」
僕らはもう一度店員さんに軽く謝った後、ゲーセンを後にしました。
そんな岩下くん、大学を卒業して消防士となり、その凄まじい優しさと肉体で人の命を救いまくってるそうです。
そしてめでたく結婚し、お祝いを渡しに岩下くん夫婦の住むマンションに行ってきました。
岩下くん「わざわざありがとうねー。」
華奢で美人な奥さんとなぜか前より2回りくらいでかくなった岩下くんが迎え入れてくださいました。
奥さんが夕食をごちそうしてくれるという事になりまして、僕はその間待っていたのですが、
岩下くんの部屋へ行くとまるでジムのようなトレーニング器具がありました。
ジュン「すっごいなー。」
岩下くん「あ、それ80キロあるからね。怪我しないように気を付けてね。」
ジュン「80キロ・・・。」
岩下くん「本当は80キロじゃ軽くてね。120キロくらいの欲しいんだけどさ、床が抜けちゃうといけないからさ。」
ジュン「岩下くん、またでかくなったよね。」
岩下くん「なんというか、その・・・。守るものが出来たからもっと鍛えなきゃと思ってね・・。」
ジュン「このマンション、熊かなんかでるの?」
照れくさそうに答える岩下くん、変な背筋かなんか鍛える機械に挟まれて身動きできなくなった僕を助けながらボソっと言いました。
ごはんも完成し、3人で食べわいわい話していると
ピンポーンと呼び鈴が鳴りました。
奥さん「またかな・・・。」
奥さんがふうとため息をつきます。
僕「どうしたの?」
岩下くん「ああ、またか・・。」
話を聞くに押し売りまがいの訪問販売に悩まされており、何度断ってもまた来るのだという。
オートロックのマンションだけど、たまたま入れたのだろうか。直接玄関に来たときは身の危険を感じるほどだという。
奥さん「しかも、見た目がちょっと怖い人だから余計にね。」
岩下くん「俺がいる時ならいいけどさ、仕事が仕事だし夜空けることも多いから心配だよね。」
なるほどねー。
僕「ちょっとオートロック開けてみようか。」
岩下くん「え?どうして?」
僕「大丈夫だよ、オレもいるし岩下くんもいるし。二度と来ないようにしてあげる。」
奥さん「どうやってですか??」
僕「オレの言うとおりにすればいいよ。大丈夫。」
岩下くん「ジュンくん、頭がいいからね。言うとおりにするよ!」
僕「じゃ、準備しててねー。」
ガチャ。
オートロックを開け、玄関まで来た悪質訪問販売のお兄ちゃん。
確かにガラが悪い。
販売員「奥さん、この間の件。考えとくって言いましたけど決まりました?」
奥さん「いや、あの・・・。」
販売員「ここまで来るのにも大変ナンですよネー!」
こりゃ性質悪いな。
僕「どうしたの?」
僕をみた販売員。こりゃカモだとでも思ったのでしょうか。
販売員「あ、ダンナさん?」
僕「いや、ダンナの弟だけど。」
販売員「ナンでもいいや。ちょっと話聞いてくださいヨ。」
聞いてみると訳の分からないものを高額で売ろうとしてきます。
しかし僕らは時間を稼ぐためにごちゃごちゃと話を聞きました。
販売員「ネ、いいでしょ奥さん」
奥さん「高価なものなので・・ちょっと。」
販売員「高価だからこそいいものなんスよ。」
僕「兄さんに聞いてみようか?」
奥さん「そうねぇ・・・。」
販売員「ナニ?ダンナさんいるの?」
ちょっと身構える販売員ですが、次の言葉にその体の強張りは何倍にもハネ上がります。
僕「トレーニング中邪魔するとブッ殺されるからなぁ・・。まいったなぁ・・・。」
僕は兄、もとい岩下くんを呼びに行き、ガチャと岩下くんのトレーニングルームのドアを開けました。
そのドアから出てきたのは僕ではなく、僕の3倍ほどの大きさの岩下くん。
その姿はパンツ一枚で、トレーニングの後。トレーニングによってパンプアップされた筋肉。80キロを楽々あげる筋肉が扱き抜かれた結果、その隆々とした筋肉からは水蒸気が立ち上っています。
岩下くん「なんの・・・話だい?」
みし、と床を軋ませ販売員の目の前にそのまま座ります。
栃木県日光市にある標高2,486mの火山。男体山(なんたいさん)。
日本百名山のひとつとして知られる。
男体山は、円錐形の大きな山容を有して裾野が広く、栃木県はもちろん群馬県や埼玉県の平地部、特に空気の澄んだ日には南関東からも独立峰のような堂々とした姿が臨まれ、中禅寺湖、戦場ヶ原、小田代原は、男体山噴火により湯川が堰き止められてできたもので、流出口には日本三大瀑布として知られる華厳滝や竜頭の滝などがある。
かつて、男体山の神と赤城山の神が大蛇と大ムカデになっ戦場ヶ原で戦い、男体山の神が勝利した。赤城山の北にある老神温泉は、このとき敗れた神が追われて落ち延びたことに由来するとされます。「赤城(あかぎ)」という地名は、神が流した血で赤く染まった「赤き」が転じたという説もある。
栃木出身の少年は、幼少のころ父と男体山に登った。
「はぁはぁ、まだ頂上つかないの?」
「まだまだだ。男体山はでかいからな。」
「なんでこんなにでかいの?」
「そりゃあ、男体山の神様は強いからだ。」
「でかいと強いの?」
「ああ、でかいと強い。」
「なんででかいと強いの?」
「でかいとな、動かなくても強いんだ。そこにいるだけで強いんだ。」
「そっか。お父さん。僕でかくなるよ。」
「そうか。うんとでかくなれよ。男体山に負けないくらいでかく、強くなれよ。」
「うん!」
僕「山・・・かな。」
ドシン、と座り動かぬ岩下くんの背中を見て僕はぼそりとつぶやきました。
岩下くん「悪いが、ウチには必要ないな。もう来ないでくれるかな。」
言うか言わないかぐらいに悪質訪問販売員は足早に去ってしまった。
僕「もう来ないな。」
奥さんは岩下くんにプロテインを渡し、岩下くんはグイっとプロテインを飲み干し、シャワーを浴びに行った。
僕「怖かっただろうにね、あの販売員。」
奥さん「ええ。そうですね。」
僕と奥さんは岩下くんを待ってる間、ケラケラと笑いながら話していた。
僕「ねえ、岩下くんのどこの惚れたの?」
奥さん「ええー、うーん・・・。優しさ、ですかね。」
僕「優しさねぇ。」
奥さん「ジュンさんはなんで主人と仲良いんですか?」
僕「うーん、岩下くん、優しいからかな。」
180センチ、100キロを超える身体。
丸太のような腕を持ち、その胸板も80キロのバーベルを”軽い”と言いのけるほどの男。
しかしその男の長所を周りに聞くと、みんなが口をそろえて
「優しいところ」
と、いう。
そんな岩下くんのお話でした。
元気かなぁ、岩下くん。