部屋とYシャツとたわし

男性にとってはとてもなじみの深い衣服、Yシャツ。
学校でも仕事でも、大体制服と言えばYシャツが基本です。
真っ白な清潔感のあるシャツは着ているだけでさわやかな印象を演出できます。

もちろん、僕も普段はYシャツを着て仕事しています。普段はダルっとタンスの一番手前にあるTシャツを着ているだけの僕もYシャツを着るとどこかキリッとするってもんです。

その昔、高校生の時に友人が
「コトが終わった後に彼女が俺のYシャツ一枚で寝てるとマジ興奮だぜー!」と盛り上がっていたことがありまして。
その当時は盛りのついた猿が。妊娠してしまえ。と心の底から思っていたのですが、
ここ最近、寝室に何気なく干してある僕もYシャツを眺めながら、いわば男性のシンボルであるYシャツ、しかも白く透けて見えそうな薄さ、そして大きめのサイズだがそれ一枚では当然全身を隠すには少し小さい。
こういったものが合わさると、それはそれでまた一興か、と寝てる妻を見ればオレのMAYHEMのTシャツを着て寝ていたのでそっと僕は目を閉じたのでした。(※参考MAYHEM

とにかく、男性にとって非常になじみの深いYシャツ。普段の生活で着ている時間は長いのです。
しかし、その白さゆえに気を使う場面もあります。
男性のほぼ全員が経験したことあると思いますが、それは食事の時に経験します。

それが、「食べ物をはねてしまう。」という失敗です。

当然、真っ白なYシャツですから食べ物をはねてしまってはかなり目立ちます。
特にカレーうどんなどYシャツを着ている時に食べるときなどは、それはもう不発弾でも扱っているかのように食事をしなくてはなりません。
かといって上半身裸でカレーうどん食べるわけにもいかず、シャツにカレーのシミを付けてしまい母親や妻に怒られた経験もしたことある人もいるのではないでしょうか。

ほとんどの男性が初めてYシャツを着るのが中学だと思います。
私服で通っていた小学校と比べ、キリっとYシャツを着た中学校。どこか大人に近づいたような気がしました。
そんな中学時代、当然僕もYシャツを着て学校にアホみたいに通ってました。

ある日、その僕の少し大き目のYシャツを後ろから引っ張られました。
そこにいたのは小さな女の子。
「ちょっと・・良いかな?」
彼女はうつむきながらそう言いました。

僕はえ?なに?これってもしかして・・・と、当然そんな経験なかったのでパニックになりました。
それも当然、ほんの数か月前までランドセル背負って、校庭で岩井君に「テポドン!ドカーン!」とか言いながらボールをぶつけて遊んでたんですから。

突然訪れた青春に嬉しさ半分困惑半分で女の子について行くと、どうやらその子は美術部らしく美術室まで連れて行かれました。

「あの・・・。」
彼女が口を開きます。

僕は、
どうしよう。オッケーする?でも中学生だぜ?早くない?あー、どうしよう。ちょっと考えさせてって言おうか。いや、それは女々しい。男ならはっきり言うべきだ。でもどっち?イエス?ノー?分からない。やっぱり、ちょっと考えさせてもらおうか。いや、ダメだ。それだけはダメだ。よし、はっきり言おう!

そんなことを頭の中で考えてると、彼女はこういいました。

「あずき洗いがでるんです。」

「ちょっと考えさせて。」
僕の答えはこうでした。

もともとパニックだった僕は一瞬で冷静に・・なるわけでもなく更に深い混乱へと入って行きました。

なんだか良く分かりませんが、詳しく話を聞いてみると
夕方になり、帰る支度をしていたら美術室の隣にある「準備室」から
しゃーりしゃーりしゃーりしゃーりと音が聞こえ、恐る恐る見てみると上半身裸のあずき洗いが屈みこんであずきを洗っていた。
らしい。

「んなアホな。」
僕がそう言うと彼女は目に涙を浮かべ
「本当なの!妙に小さかったし服着てなかったし、暗い中しゃりしゃりあずき洗ってて。それも一心不乱に洗ってたんだから・・・。」

彼女は僕のYシャツに両手でしがみつきながら小さく震えてます。

本当・・・なのか?

彼女のあまりの怯えように僕もそう思わざるを得ませんでした。

そして、詳しく話を聞くと、あの「準備室」には彼女の絵が置いてあり、それは大切なコンクールの作品らしい
もうすぐ締め切りなのだが、怖くてあの部屋に入る事ができない。このままでは間に合わないので僕に妖怪退治を頼んだらしい。

そもそも中学生の僕に妖怪退治の経験なんてありません。いや、もちろん10年以上たった今ですらありませんから何をすればいいのか、全くさっぱり見当もつかない。
大体なぜ、あまり面識のない僕に妖怪退治を頼んだのか分かりません。

さすがのインターネットも、あずき洗いの退治の仕方なんて書いてある所もありませんし、本を調べたりもしましたがそんなものはない。

唯一過去に退治に成功した人物を見つけることができました。鬼太郎です。ゲゲゲの鬼太郎です。髪の毛針で見事退治したようです。

と、なると今度は髪の毛針の修得が必要になってくるのですが、これがまたインターネットみても本を読んでも分かりませんでした。

どうやら八方塞がりなよう。

どうしようかな、と考えているうちにとある疑問が生まれてきました。

本当にそれはあずき洗いなのか?

たしかに彼女の証言はあずき洗いのそれと酷似しています。
しかしですね、冷静に考えてみてそんなことあり得ません。

もしかしたらただの不審者なんではないか、と。

そうなるとあずき洗いより大事です。

これは、一生徒の僕には手に終えない。
先生だ、先生に言おう!

僕はそう決め職員室に走ります。

職員室のドアを開け、僕は先生に言おうとしたら

「お前か、ちょうど良いとこに来た!ちょっと来い!」

と奥に連れられ

「岩井が毎日シャツをびしゃびしゃにして帰ってくるって親御さんから電話があった!どうせお前がまたやってるんだろう!」

と、言われました。

「オレじゃないよ!それどころじゃないんだよ!」
と当然反論しましたが、

「他の生徒がお前が岩井にカナブン着けたりしてるのを見たってみんな言ってるんだ。」

確かにカナブン着けたりしたことはありました。でも水かけるなど陰険なことはいたしません。

「僕じゃないよ!だいたい、僕と岩井は友達だよ!」
「岩井はそう思ってないかもしれないだろ!」

今には珍しい熱心な先生です。

こってり絞られ、職員室を追い出されました。
あずき洗いの事なんて言う隙もなかった。

すっかり日も暮れ、部活動の人達も帰り始めた頃、ショボくれた僕はもうあずき洗いとかいいや、帰ろうと思い下駄箱へ向かうと

しゃーりしゃーりしゃーりしゃーり…

うん?

しゃーりしゃーりしゃーりしゃーり…

聞こえる。
確かに聞こえる。

振り返ればそこは「準備室」と書かれている。
そう、噂の部屋だ。

「まさか・・・・。」

僕は疑っていた。
あの女の子はアホだ。と。

しかし、今僕の耳には確かにしゃりしゃりと何かを洗う音が聞こえる。

「あ、あずき洗い・・・・。」

僕の身体に戦慄が走った。
どうしよう。
よし、髪の毛針だ!
でない!
当たり前だ!

頭の中では甲高い声が「髪の毛針じゃ!」と響いているにもかかわらず、
当然、僕にはまだ使えませんでした。

いや、ちょっと待てよ。

そうだ。もしかしたら不審者かもしれない・・・。

これはマズいぞ。

泥棒かもしれない。
下手すりゃ中学生を狙うド変態ロリコンレイパーかもしれない。

僕の頭のなかで、あの彼女が目に涙を溜め
「助けて・・。」
と見つめる姿が思い浮かびました。

よし。
行くか。

僕は近くにあったホウキを手に取り、準備室の中へ。

しゃーりしゃーりしゃーりしゃーり

居た。

部屋の中にはうずくまり何かを洗っている上半身裸のナニカ。

あずき洗いは気づいていない。
このまま後ろから・・・・

そうホウキを握りしめた瞬間!

「何やってんだー!お前はー!」

大声をあげ部屋に入って来たのはさきほどの先生。

「お前このやろう!」

先生は僕のホウキを取り上げ、僕を突き飛ばします。

キョトンとする僕。
そしてあずき洗い。

ではなく、そこに居たのは岩井だった。

「どういうことだ。説明しろ。」

先生は僕を激しく掴み問いただします。

「さっぱり分からない。」
僕はそう答えました。

しかし、一番状況が読み込めていないのはあずき洗いもとい岩井のようでした。
呆然と上半身裸でたわしを持って突っ立っています。

たわし?

「つまり、岩井は自分で汚れたYシャツを洗ってたんだな。そのたわしで。」
「はい。」
「で、お前は岩井をあずき洗いだと思ってホウキを持ってたんだな。」
「はい。」
「岩井、親御さんからいつも濡れて帰って来るって言われたぞ。自分で洗ってたんだな。」
「はい。」
「お前たちはバカだ。」
「はい。」

岩井は実は美術部で、毎日毎日絵の具でYシャツを汚してしまい、怒られるのは嫌だったので自分で部活が終わるとYシャツをたわしで洗っていたそうだ。

「岩井、正直に言えよ。いじめられてないのか?」
「はい。」
「先生、てっきりいじめかと思ったぞ。岩井がこいつにいじめられてると思ってた。」
「いやいや、僕たち友達ですよ。だよな、岩井。」
「え・・・うん。」
「カナブン着けて遊ばれてるってみんな言ってたぞ。」
「あ、あれは。僕も面白かった。」

確かに岩井、オレがカナブンつけた時ケラケラ笑ってたな。あんな岩井初めて見たよ。

「そうか、いや悪かった!でも岩井、こんなトコでそんなコトするな。家帰ってお母さんにやってもらいなさい。」
「はい。」
「じゃ、気をつけて帰りなさい。」
「はい。さようなら。」

僕の誤解も解け、あずき洗いの正体も分かったところで僕らは家に帰ることにした。

「あのさ。」

岩井が帰り道僕に話しかけた。

「ありがとね。」

「え?何が?」
「いや、その友達って・・・言ってくれて。」
「え?友達だろ?・・・だよな。」
「うん!」

あずき洗いはニコっと笑い僕に手を振った。

「あ、一つ聞きたいんだけどさ。」
「うん、なんだよ。」
「ジュンくん、なんで仲のいい友達に必ずカナブン付けてるの?他の友達にもやってたよね?」
「え?なんでかな。面白くない?」
「あんまりww」
「そう。」
「でも嬉しかった。友達だと思ってくれてるのかなって。」
「変なの。カナブン付けられて喜んでるなんて。」
「確かにww」

そう言うと岩井は家の中へ入っていった。

「最近、あずき洗いでなくなったの。本当に退治してくれたんだね。」

例の女の子は僕にそう言ってきた。

「わ!シャツ土で汚れてるよ!どうしたの?」
「あ、虫取りしてて。」
「え?なんで?」
「まあいいじゃん。あずき洗いでなくなったって?」
「あ、うん!そうあれから見てないよ!本当すごい!ありがとう!」
「え?うん。まあね。」
「すごいね!ありがとう!どうやってやったの?!」
「友達になったの。」
「え??」
「友達だよ。あ、コンクールどうだったの?」
「うーん、ダメだった。あの変な虫の絵が入賞したよ。ほら、あれ。」

壁に飾ってあったのは、大きなカナブンの絵だった。

「やるじゃん、あずき洗い。」

僕はYシャツの土をパッと手で払い、手に持ったカナブンをあずき洗いの下駄箱へ入れたのでした。

言葉の力

前回何日かにわたり久々に長いヤツをUPしたら怒られた。

怖いの書くなって。

ずっと見てる人にはわかると思うけど、僕はちょいちょい怖い系を書きます。
このブログも、
・身の回りにあった出来事
・他人の悪口
・下ネタ
・怖い系
が大半を占めているわけでして。

僕は結構怖い話って好きなんです。

いわゆる心霊スポットやなんか見たら死ぬ写真とか見たりしてますが、幽霊なんて見たことないし死んでもない。
いや、もしかしたら気づいてないだけで実はすでに死んでいるのかもしれないですけど、もしそうならなかなか充実した浮遊霊ライフなので、これもまた悪くないですね。

僕の生死はいいとして、言葉や文の力ってすごいと思うんです。
ほら、僕も文章書くの好きだし読書が趣味っていうネクラな人もいるんじゃないでしょうか。
文章って見たままだとただの線の集まりなのに、いろんなものを表現できる。
僕の文だって、書き方一つで人を怒るほどの恐怖を感じさせたり、笑わせたり、ムラムラさせたりとできるわけなのですから。

そんな文章というものですが、僕はどうしても我慢ならない文章がある。
なんだか知らないけどSNS系やLineなどでたまに出回ってくる、
いわゆる「格言・名言」系の文章だ。

多いのが「感動系」「恋愛系」「格言系」などがあり、共通してるのが「感動したら拡散」みたいなことが書いてある。
いったい誰が何のためにやってるのか分からないが、僕が思うに非常にキモい。

僕の好きな言葉に
「経験に勝る書物はない。」
という言葉があります。
これはうちのオヤジがそう言いながら僕を漁船から海に落としたんですけど、今考えれば全然意味わかんないし太平洋沖で海に落とされるのがいったい人生において何のメリットのある経験かも疑問視できますが、
落とされて分かったあの突き刺さるような海の寒さ、理不尽なことをされた時の怒り、そしてこのオヤジな何を考えているんだと思った混乱は、どんな書物や文章を読んでも感じることはできません。

例えば海に落ちた寒さを小説風に

海中から千のナイフで全身を突き刺されるような激しい寒さ
と表現したとします。

でも、それより実際に海に落ちた人がブルブル震えながら
「やべぇ」
と一言言ったほうがきっと寒さは伝わります。

それだけ、経験というのは人に「感情」を覚えさせるものなのです。

で、例の「格言・名言系の文章」ですが
実際に例を挙げてみると

--------------------—-
回ってきた、感動…
ほんまそのとーり。

悲しい事が起きると、
女性は男性の8倍の
身体的ストレスを受ける
って科学で証明されたらしいよ。
それはその女性が強い弱いに関わらず。
つまり対等に付き合ってる
カップルがいたとしたら
彼女は彼氏の8倍の悲しみを
隠して毎日笑ってる。
これが女の強さ。

いちいち揺らぐな、想いを疑うな。
自分が好きになった人を信じろ。
その人を好きになった自分を信じろ。

「もういい」は全然良くない事。
「どーでもいい」は全然どーでもよくない事。
「好き?」の質問は言葉が不足してる時。
「大丈夫」の言葉は心配させたくない時。
「ごめんね」を繰り返す時は素直になりたい時。
分かって欲しい言葉がある。
気付いて欲しい言葉がある。
--------------------—-

こんなの。
これは「恋愛系」の文章ですね。キモい。

オレにとって、この文章を読んで分かったこと感じたことといえば、冒頭の「科学で証明された」ってとこから
女は男の8倍科学のこと分かってないってことはよく分かった。

恋愛系でもう一個。

--------------------—-
馬鹿な男へ
これ読め。んで、女の大切さ知ろ。
あんた本当に彼女の事愛しとんの?
大事にしようと思っとんの?
なら、なんでもっと愛伝えてやらんの?
男からすると面倒かもしれんけど女ってすごい嫉妬するんだょ?
すげー独占欲つえーだぞ。
でも、嫉妬も何もかも全部お前の事心の底から命かけて愛しとるもんでぢゃん。
そんなんも分からんの?
やっぱ男ゎ馬鹿だ。
女のこーゆとこうぜーとか思ったその日に
彼女死んだらどーすんの?
それがもしお前に関連しとったら責任とれんのかょ。
あんたがふろうって思っとる瞬間も、彼女ゎあんたの事考えてんだょ?
好き、愛しとるって思っとるだに?
そんな彼女の気持ち無駄にすんぢゃねーょ。
もし、別れようとか思うんなら最初から軽いノリで付き合うなょ。彼女ゎ真剣なんだょ?
付き合うならそれなりに彼女大事に愛して
責任持てよ。
女ゎ毎日きとったMAILが1日こんだけでも間違いMAILが届いただけでも違う女かな?とかそーぢゃなかったとしてもめっちゃ考えちゃうだに?それが重い?
馬鹿な男にゎそーとしか受け取れんだろーね。
ちゃんとした一途で筋の通った奴なら
そんな事思わねーょ。
本当に相手を愛しとるなら何か面倒な事とかされてもそれさえも嫌だとわ思わんだて。どんな嫉妬からでも愛感じるんだって。そんでも、嫉妬ってことわやっぱ彼女傷ついとるって事やん?
だもん、彼女傷つけんよーに女と関わらんとかMAILしんとかいろいろするだに。
でも、女も馬鹿だから本当ゎ嬉しいのに男のためにそんな事までしんでいぃとか普通に楽しく過ごしていぃとか言って強がるだに。そんな優しい女捨てるとか腐っとるら。馬鹿にされたくねーなら愛してみろや。最後までそいつに、その愛に命かけてみろや。
それでこそ本当の男ってもんだろ。
馬鹿な女ょり
--------------------—-

はい、よく頑張って読みました。オレも読むのつらかったよ。

こういうのが出回ってるわけなんですよ。

オレもさ、ほっときゃいいのにこういうのを回してるやつに対して「きんもー☆」とか言っちゃうから余計ないざこざが生まれてしまうという。
挙句の果てに「あなたは本当の恋愛したことないんですよ。」とか言われたりして。どこぞの小娘に。結婚すらしてるオレが。

恋愛に関してはあんまりあーだこーだいうのは僕の趣味ではないですけども、
20代そこそこ、ましてや10代の小娘に「人を愛すること」について語られても正直感銘は受けない。まあ、同世代の人向けに書いてるんだと思うけどさ。これ見よがしにオレに回してきて何が言いたいのかと。

もしこれが60年連れ添ったおばあちゃんが書いてるのなら僕だって「勉強になります。」と頭を垂れるってモンです。てかそんなおばあちゃんがFacebookとかやってたらそれだけで頭が下がります。

僕もTwitterで好きな人がいます。いや、恋愛的な意味ではなく人間として。
渦潮って名前で書いてるんですけどね、聞いたことある人もいるんじゃないでしょうか。このブログの読者です。
彼女のTweetはだいたいゲームのこととか酒の事とかしょーもないんですが、たまーに旦那の事を書いたりしてます。
決して感動的な文ではないんです。「早く帰らなきゃ!」とかその程度なんです。

そういった既婚者の何気ない一言。これはどんな格言よりも「人を愛すること」について考えさせられます。
そんな中、オレと言ったら例の隈のオッサンと濃厚なホモセックスごっこしてましたからね。同じ既婚者でもこうも違うのかと少し悲しくなりました。

でも言ってしまえば、僕は恋愛マスターです。変な意味ではなく結婚している既婚者はみんな恋愛マスターです。人生を捧げるただ一人の人を見つけることができたんですからね。2,3年付き合った相手がいるからと言って愛について語って欲しくないものです。

そんな恋愛マスターの僕なんて息を吐くように「愛してる」と言えますよ。
だいたいその返事は「頭おかしくなった?」とか「浮気したのか。」とか「ジュンさん結婚してるじゃないですか。」とかですけどね。

何千何万の格言を読み、あっちゃこっちゃに回しても左手薬指のたった一つの指輪の重さには敵いません。
もし恋愛や愛について学びたい、知りたいという気持ちがあるのなら恋愛マスターが身近にいるじゃないですか。
両親でも兄弟でも友人でも学校の先生でもバイト先のオッサンでも。既婚者は一人はいるはずです。
その人たちが言う「結婚?めんどくせぇよ」はどんな格言にも勝る「言葉の力」を持っているはず。

たくさんの他人の言葉で語るより、自分の言葉で「愛してる」と言える人間になりたいものです。

人柳と月。 最終話

その一
その二
その三

登場人物

私 柳の神社の近くに住む青年
K 神社の次男。オカルト話は嫌い。
K兄 神社の跡継ぎ。噂の真相を話してくれた
J 私の知りあい。噂に興味を持つ。何かに気づいたらしい

僕「おい、行かないって約束したじゃねぇか!嘘だったのか!」
僕の静止も聞く耳を持たない。

J「向こうも嘘ついてんだ。お互い様だよ!」
僕「なんで嘘だって分かるんだよ!」

僕はJを止めるために後を追う。

J「これだよ!」

Jが指さしたのは例の花だ。

僕「それがなんだって言うん・・・・・・。」

僕は全身が凍りついた。

J「どした?」
僕「あ・・・。ああ・・・・・・・・。」

Jの真後ろだ。

はっきりとは分からない。しかし、何か人影のようなものが確かに見えた。
いや、見えたというより”感じた”が正しい表現か。
しかし、「何か」が確かに存在した。

J「お前、見えんの?」

僕は恐怖のあまり声が出ない。
小さく

僕「柳サマ・・・だ・・・・・・。」
とつぶやくのが精一杯だった。

僕はすくんだ脚を奮い立たせ、Jを力いっぱい引っ張った。
僕「お兄さんだ!お兄さんのとこへ行こう!」

そう言うがJは動こうとしない。

僕「早くしろ!何やってんだよ!逃げるぞ!」
僕はそう言ったがJが静かに呟く

J「そんな失礼な事できっかよ。」

何を言っているんだこいつは。本当に頭がおかしいしか思えない。
こうなれば一人でも逃げてやると思った時、

Jは静かに手を合わせた。

J「オレには見えないけどさ。ありがとう。」

ありがとう?
何をしてるんだ。そう思った時に

K兄「何をしているんだ!!」
ひとしきり大きな叫び声が聞こえた。
騒ぎを聞きつけたKの兄だった。

Kの兄はとても驚いた様子で足を止め、こちらを見ながら再び叫んだ。

K兄「早くこっちへ来い!!」
すると、Jも同じだけの大きな声を上げ

J「うるせぇ!!!」

と怒鳴った。

J「いつまで隠してるつもりだよ。」
J「オレには見えない。見えないけどさ、この人じゃないだろ。噂のバケモンはよ。」

Jはそう言うと、Kの兄に詰め寄った。

J「二人、ここで死んでるんだろ。」

そう言うとKの兄はとても驚いた。

K兄「なんで、分かる・・・?」

J「これ。花。二人分だろ。」

K兄「・・・・。」

J「誰?今居る人は。」
K兄「お前、見えるのか?」
J「見えないって言ってるじゃん。でもね、怖くない。オレだってホントは幽霊は怖いよ。でもこの人は怖くない。」
K兄「凄いやつだ・・・。」

そう言うとKの兄はJの方に近寄り、Jの足元にあった花を池に投げ入れた。

そして「ありがとう御座います。」

と祈りを捧げた。

固まる僕を尻目にJも同じように祈っていた。
Jも小さくありがとうとつぶやいていた。

月の無い夜なのに、池からやさしい光が反射しているような気がした。

Kの兄とともに家に入るとすぐさまお祓いが行われた。
僕ではなくJに対してだ。

J「ふう・・・。」

少しダルそうにしながらJはため息を付いた。

K兄「大丈夫か?」
J「わかんねぇよ。プロが素人に聞くなよ。」
K兄「まったく信じられないやつだな。」

Kの兄が水の入ったかめに祈った後、手ぬぐいを浸しJの首に当てた。
その時僕は衝撃を受けた。

僕「あ、それ・・・!!」

Jの首は赤く腫れていた。ミミズ腫れのような何か「縄」でも括ったような・・・・。

J「悪ふざけで行くとこじゃねぇな。」
K兄「当たり前だ。」
J「けっ、一度見捨てたくせによく言うわ。」
K兄「それは・・・済まなかった。」
J「いいよ、オレが悪いんだもん。」

何が何だか分からない。

一通りの処置を終えた後、Kの兄とJは話しだした。

J「実はよ、一回目柳へ行った時にオレなんかされたんだよ。」
驚いた。平然としていたようなJは首に違和感を感じたという。たしかに、首が重いなどしきりに首を気にしていた気がする。

J「で、やべーな。とか思ってたらお兄さんが来てね。助かった、と思ったらシカトしやがんの。気づいてたくせに。」
K兄「済まなかったって。」
J「だから、助けてもらいにもう一度行ったってわけだ。」

僕「えっ?」

何が何だか分からない様子の僕にイライラしながらJは語った。

J「おそらく、オレを襲ったのは柳に出るバケモンだ。祟ろうとでもしたんじゃないの?
  で、お前が見たって言ったのは違う人。そのバケモンを監視してる人ってわけだ。」

僕「え、何がなんだかわからん。」

J「だー、もう鈍いやつだな!オレダルいしお兄さん、言ってやってよ。」
K兄「分かった。実はな・・・」

柳の霊は実在する。
月明かりをさけ、新月の日にあの柳に出るんだ。
それは例の女で、柳で首を吊って自殺した。
しかし、何故新月の日に出るか。
実は、あの池で神社の身内の女性が同じく自殺した。
彼女の死ぬ前、霊と祟りを恐れた住民たちは神社の者へ助けを乞いた。
しかし、なぜだか女の霊は神社の人間の前には現れなかった。
それは、住民の「差別」に加わらなかったからだ。
特に、同じ歳の女性が居て、その病で顔を傷つけた女を「人間」として扱った。

女の事、女の顔を化物などと言わなかった神社の人間は女の霊に出会うことはなかった。
新月の夜、住民に見られないように新月の日に神社の女性のもとを何度も訪れたほどだった。
女にとって神社の人間、特に例の女性は心の拠り所だったのだろう。
女は住民に受けた酷い仕打ちを恨み、住民だけを祟ったのだ。

何も知らぬ住民たちは今度は、何もできない神社の人間を蔑んだ。
インチキ。能なし。出て行け。など。
それを苦に、神社のその女性は池に身を投げた。
皮肉にも月のキレイな夜だったそうだ。
水面に写る月に吸い込まれるように女性は死んでいった。

優しい彼女は住民を祟ることなどなかった。
ただ、ひたすらに何もできなかった自分を責めていたそうだ。
住民を守れなかったことも、女を救うことができず死なせてしまったことも。

月の光が出ている間、神社の女性の霊は女とともに居る。
彼女が居る時は、女は恨みなど忘れることができた。
しかし、月のない日は神社の女性は出てくることができないんだ。
すると、恨みが蘇り女は人を襲おうとする。
自らの恨み、神社の女性を死に追いやった恨み。それらを晴らそうと。

柳サマとなって。

僕「悲しすぎる・・・。」

K兄「ああ。本当に怖いのは霊なんかじゃなく、人間さ。」
J「もう一人の霊を隠してるのも、また神社の人間だってバレたら近所から変な目で見られるからってわけだ。」
K兄「ああ。この辺りはそういう土地柄なんだよ。昔から。」
僕「つまり、最初行った時にすでにJは祟りを受けていたって事?」
K兄「ああ。新月だからな。女性の力で抑えることができなかったんだ。」
J「で、お兄さんは気づいたけどオレを見捨てたと。」
K兄「何もできないんだ。神社の人間の俺には。」
J「ま、だからオレはあの人のとこに行ったってわけだ。良かったよ、助けてくれたみたいで。」
僕「それにしてもなんで分かったんだ?」
K兄「ああ、俺も気になるな。」

僕らはJに視線を向けた。

首を曲げ、痛そうにしているJは
J「分かってなんかないよ。勘だよ、勘。」

K兄「大した度胸と勘だよ。」
J「でもそのオレの勘でもわからないことがあるんだよ。」
K兄「なんだ?」
J「今日は新月だ。なんであの人は来てくれたんだ?」
K兄「俺にも分からん。」

「わかんないんじゃ、まだ跡は継がせられないな。」

奥から出てきた男性はそう言いながらJの元へ行き、

「自分で巻いた種とは言え、立派だった」
そうJと固い握手を交わした。

K兄「親父!」
K父「おう。」
K兄「知ってたのか?この騒ぎを。」
K父「ああ、全部J君から聞いたよ。見捨てるとは情けないな。」
K兄「それは・・・・。でもいつ?」
J「ほら、トイレ借りたじゃん。その時トイレ誰か入っててさ。お父さんがウンコしてた。」
K父「その時に全部聞いたんだよ。これってヤバイ?とか言われて困っちゃったよ。」
J「親子揃ってさ、何もできないとか言いやがんの。全くね。」
K父「ただ、祈ればきっと届く。とだけ言ったんだ。」
J「どうやら届いたようだな。きっとオレがイケメンだからあの人も来てくれたんだな。」
K父「バカなヤツだ!俺もずっと祈ってたんだよ。君等が柳に向かう間ずっと。俺の祈りのおかげだな。」
J「いやいや、オレに惚れたんだって。ユーレイすら落とすオレはさすがだね。」
K兄「あんな事があったのに笑ってやがる。本当大したヤツだ。」

Kの父とJの笑い声が新月の夜に響き渡った。

僕「マジで行くのか?」
J「今日は満月だ。大丈夫大丈夫。」

僕らは後日、再び柳の元へ向かった。
今度は美しい満月の夜だった。

僕「お供え物、月見団子でいいのかな。」
J「オレの顔が見れれば、満足するって。」
僕「お前・・・。」
J「あん?」

僕らは満月の夜、二人分の月見団子を持って柳の下に置いた。

J「超綺麗だな、月。」
僕「ああ。そうだな。」

僕らは手を合わせ、月を見上げた。

J「このまま月見でもしますか。それ食って良い?」
僕「バカ!お供え物だぞ。」

池に映る満月が、りん、と光った。

J「食っていいってさ。」

ニヤと笑いを浮かべ、親指で池に写った月を指しながらJは言った。

もしゃもしゃと月見団子を頬張るJの目には
美しく優しい満月の光が映っていた。

終わり。