日中の恐怖
夏の夜の風物詩の一つ、怪談。
夏になれば怪談話で盛り上がったり、肝試しが行われたりする。
しかし、ちょっと疑問に思った。
なぜ、夏の夜なのか。
夏、というのは納得できる。
おそらくお盆もあるし、暑い夏に肝を冷やす怪談で涼をとるのは納得できる話だ。
でもなぜ夜なのか?
言われてみれば霊の類は夜に現れるといわれている。
「草木も眠る丑三つ時」
落語や怪談話でよく使われる文句だ。
そもそも丑三つ時、とは丑の刻つまり午前2時の前後2時間。そこに三つが入り午前2時から午前2時半ごろの時刻を表す。
おそらくこの丑の刻が不吉なものというイメージが付いたのは丑の刻参りだろう。
丑の刻に呪いの儀式を行うことによって憎む相手を呪い殺すことができる、というものだ。
これが有名になり、丑の刻は不吉、とイメージ付けられたのだと思われる。
実際に宗教的な観点でもこの時刻は「逢魔刻」とも呼ばれ、字のごとく「魔」のものに「逢ってしまう」時刻とも言われている。
では丑三つ時以外は幽霊には会わないのか。
そんなわけはないと思う。
例えば午前2時、ポツンと女が立っていたら。公園に一人子供が座っていたら。
誰もが「やばい、霊だ。」と感づくかもしれない。
しかし、昼間同じく女が立っていたら、公園に子供がいたらなんの不思議もないだろう。
誰が「霊だ」だなんて思うだろう。
そう、昼間でも霊たちはそこに存在する。
しかし私たちはそれを「生きている人間」と勘違いしているだけだとしたら。
ジュン「暑いなー・・・・。」
A「なー・・・。」
ものすごい暑い日、何するわけでもなく僕は友人のAとブラついていた。
ジュン「このままじゃマジで死んじゃうぞ。ちょっとどこか涼しいとこ入ろうぜ。」
A「そうだな。でもこの辺アレくらいしかねぇぞ」
Aが指差したのは市で運営してる施設。市民のためにプールが解放されていたり何に使うのかわからない会議室や多目的ホールなどがある施設だ。
ジュン「まあ、ちょっと一息つくくらいならできるかな。」
そう思い二人でそこに入った。
A「あー、涼しい!生き返る!」
ジュン「はい、自販機でお茶買ってきた。」
A「お、助かるー!」
冷たい飲み物を涼しい室内で飲み休憩していた。生き返ったような気持ちさえしたものだ。
ジュン「案外人がいるもんだな。」
A「田舎だからな。他に行くとこもないんだろ。」
ジュン「そうかもね。でもプールも解放されてるし、今夏休みだからよさそうだよね。」
A「これ夏休みだから賑わってるけどシーズンオフは誰もいなくて寂しいぞ。」
ジュン「こういう市の施設とかってそういう感じのとこ多いよね。」
A「税金の無駄だよね。」
ジュン「お前税金払ったことあったっけ?」
A「ああ、悪かったよ。」
子供「うわーーん!ママー!ママー!」
そんな話をしていたら少し離れたところで子供が泣いていた。
A「おい、迷子か?」
ジュン「こんな建物の中でフツー迷子になるか?」
A「子供なんだからフツーじゃないんだよ。ったく親はどこ行ったんだよ。しょうがねえなあ」
ヨっと声をだし、Aは子供の方へ向かっていった。
A「ママいなくなっちゃった?お店の人に探してもらおうか。」
子供「う、うん・・・。」
A「ほらおいで。お店の人のとこまで一緒に行ってあげるよ。ちょっと行ってくるわ。」
そう僕に言った後、施設の従業員を探しにAと子供は歩いて行った。
そうこうしているうちに今度は母親だろうか。割と若い女性がおろおろしながら歩いてきた。
母「どこー?!ねぇ○○!どこー?!」
半狂乱で子供名前を叫び、探している。
ジュン「あ!お母さん?!」
母「え?はい。」
ジュン「さっき子供が泣きながら歩いてたから友人が従業員のとこまで連れてったんですよ。あっちですよ。」
母「本当ですか!ありがとうございます!!」
すると母親は走ってAと子供が行った方へ走って行った。
A「おーい。」
ジュン「お、お母さんあった?」
A「あったあった。めっちゃお礼言われたよ。お礼だって言ってお金渡されそうになったもん。断ったけどさ。」
ジュン「パニックになってたからね。」
A「よかったねー。」
子供「あ!いたー!あのお兄さんたち!」
母「あ、先程の!本当にありがとうございました!」
子供「ありがとうございました!」
さっきの親子が僕らが座っているところに歩いてきた。
母「本当に助かりました。よかったらこれ、召し上がってください。」
A「そんなわざわざ・・。」
母「いえいえ、大したものではないですけどどうぞ。」
A「そうですか、頂きます。」
そういうと母親はコンビニの袋を手渡した。
母「それでは失礼します。ほら、ありがとうは?」
子供「ありがとうございました!」
A「あれ?3個?」
コンビニの中には缶コーヒーが2つとオレンジジュースが一つ入ってた。
ジュン「それ、あの子供の分じゃね?一緒に勝手忘れてんだろ。」
A「ちょっと返してくる。」
そう言おうとAが立ち上がったら
子供「あっ!」
子供は小さく叫び、こっちに戻ってきた。
子供「コーヒーはお兄ちゃんたちの分で、ジュースは女の子の分だからねー!」
子供は僕らの横を指差し、そう叫んだ。
その指の先には、僕らは何も見えなかった。
ジュン「何言ってんだ??」
僕がきょとんとしているとAは
A「はーやっぱりかー。」
とため息をついていた。
A「外出るぞ。」
Aとともに外に出た僕。
A「はい、このコーヒーは俺の分。このコーヒーはお前の分。で・・。」
A「ジュースは君の分だって。」
ジュン「あ・・・。」
Aはジュースの缶を道路の側のガードレール下に置いた。
そこには古くなったジュースの缶やお菓子の箱、そしてお花が置いてあった。
A「なーんかいたような気がしてたんだよなー。」
どうやら”その子”は僕らに紛れ、あの親子には「生きている子」のように見えていたようだ。
A「こうも暑いからね。ちょっと涼みに入ったんじゃない?」
ジュン「幽霊って暑いの?」
A「しらねぇよ。」
そんな話をしながら僕らは太陽の照りつける中を歩いていくのでした。
今、これを読んでいるあなた。
あなたの目の前にいる人、それは本当に「生きている人間」ですか?