人柳と月。 その一

「日が沈んだら人柳の下を通ってはいけない。
 新月の夜、人柳の近くに行ってはいけない。
 ”柳サマ”に会ったら、そちらを見てはいけない。
 この言い伝えは決して破ってはいけない。    」

この日本には様々な”言い伝え”が存在する。
例えば遠野の河童や座敷わらし等の古くからの言い伝え。
または、現代らしい「都市伝説」と言われるものもある。

それらの起源は分からず、くだらない噂話から派生してものもある。
しかし、実際に大勢の人が知っている古くからの言い伝えとなれば、何かしらの「出来事」が本当に起こったのかもしれない。

場所こそ言えないが、私の地元には「月下の大柳」という物がある。
全国的にも有名ではないが、知る人ぞ知る「絶景スポット」なのだ。
大きな柳の後ろに月が綺麗に見え、またそのすぐ奥には池があり池に揺らめく月明かりがとても美しい。
しかし、その美しさとは裏腹にとある”言い伝え”が存在する。

「月下の大柳」は神社の境内にあり、もちろんその神社が管理している。
その美しさは月が引き立つ夜でありながら、日が沈むと神社によって閉鎖されてしまい近くに行くことはできない。
また、月の出ない夜。つまり新月の日にはその場所に行くことすらできないのだ。

神社に限らずそのような古くからの決まりに疎い私たち、若い世代は別に気になどしていなかった。
そう言うものだ、そう思っていた。

その神社では、変わった時期に行われる祭りがある。
それが十五夜の夜だ。

月見団子や酒が振る舞われ、美しい月を堪能する。
地元住民はそれを楽しみにしていた。

そこで私はとある住民から気になる事を聞いた。
べろべろに浮かれた中年の男性が何気なく言った言葉だ。

「今日だけは、怖がらずに月見できるからよ。今日の月は見事なもんだぜ。」

「地元住民たちの猛烈な反対の中、都市開発は進み・・・」

テレビから地元住民らしき人の怒号が聞こえた。

「人間住むところが必要なんだから、仕方ないじゃんねぇ。お前らだってそうやって家建てたんだろうによ。」

噂の東京マガジンを見ながら家でのんびりと過ごしていた私には見てる分には他人事だから面白い。
「そんなキ●ガイみたいに反対しなくても良いじゃんね。必要だから建てるんだろうし。」

テレビを見ながらぼやいてた僕はその時、それが他人事ではない事など知る由もなかった。

「マンション建設、断固反対!!」
大きな布に赤字で書かれた断幕は物々しい雰囲気を醸し出していた。

「美しい景観を守れ!」
皮肉なことに、その断幕がなにより町の景観を崩していると私は思ったりしたものだ。

どうやら、マンションの建設計画があるらしい。
マンションが立つと位置的に月は見えなくなってしまう。

地元住民が猛反対しているそうだ。

「この辺もキ●ガイ住民だったのか。」
自分の住む地元がこんな民度だったのか、と少し残念に思ったものだ。

ふう、と小さくため息をつきながら歩いているとあの神社の前を通りかかった。

そこには、少し怖さを覚えるほどの断幕が張られていた。

「うっわ・・・。」
僕が目を丸くして断幕を見ていると

「止めてくれよ、ばあちゃん。俺、地元の友達に見られたら恥ずかしいよ!」

聞きなれた声が向かいの家から聞こえてきた。

「おまえんちまで、あんな事やってんのかよってからかわれちゃうよ!」

僕がその声の元へ目を向けるとそこにいたのは小学校の同級生だ。仮に「K」と呼ぶことにする。

K「あっ、お前か。嫌なとこ見られちゃったな。」
私に気付いたKはバツが悪そうにこちらへ歩いてきた。

K「ばーちゃんがよ、みっともねぇからやめろって言ってんのにあんな布出しやがってよ。」
Kはやれやれと家の方を見ると、彼の祖母が断幕をまさに張っている最中だった。

Kの祖母「ならん!マンションなんど、建てちゃならん!」
興奮した様子で叫ぶ祖母をKはうるさいと怒鳴りながら私に小さくごめんとつぶやいた。

僕「まあ、景色とか大事にしたいんじゃない。オレら若いのは別に気にしないから分からないけどさ。」
私はそうフォローしたつもりだったが、何故だかKの祖母は余計に興奮しながら

Kの祖母「そんな景色なんて安い事じゃならん!月を隠してはならんのだ!」
Kの祖母がそう言うとKはまた始まったよ、と悲しそうな顔をした。

僕「月を隠してはいけないって?」

私はKにそう聞くとKは
K「うるせーから、コーヒーでも飲みいかね?悪いね。」
そう私に言って、私の背中を押した。

Kの祖母「あんさんもな、早いトコ町を出るんだね。この辺にゃ住めなくなるぞ。」

K「うるせぇな!訳のわかんねェ事言ってんじゃねえぞババア!」
普段はおとなしいKの口から初めて聞く大きな叫び声と罵声が飛び出たが、
私はKの祖母の言葉がどうしても気になってしまった。

僕「住めなくなる・・・?」

K「ったく・・・。」
イライラした様子と身内が狂った事を友人に言ってしまった恥ずかしさがKの顔を自然と赤く染めていた。

続く

※この記事はテキストブログ仲間のある方から聞いた話を、僕(ジュン)が書きなおしたものです。

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